「月経困難症」3枚のカルテ
同じ日の外来に、月経痛の相談が3人。カルテには全員同じ「月経困難症」。NSAIDsは全員に出しました。それで終わりにしてよいのか――基礎編でやった通り、主訴は入口。その先の証で分岐します。3人を順に見ていきましょう。
① 30歳・経血に塊・のぼせ(便秘なし) → 桂枝茯苓丸
がっちり体型で、経血に塊が混じり、月経前にのぼせる。便秘はありません。下腹部を押すと圧痛(小腹急結)があります。冷えというより、むしろ熱がこもる印象。これは血が滞る瘀血で、体力もある実証です。ここは血の巡りを回して捌く方向――桂枝茯苓丸が届きやすい像です。
ここに便秘が加わり、のぼせと月経前の高ぶりが強ければ、より強く瘀血を下す桃核承気湯が候補になります。桂枝茯苓丸は便秘なし、桃核承気湯は便秘あり、と整理すると分かりやすいでしょう。
② 26歳・冷えると悪化・顔色不良・むくみ → 当帰芍薬散
やせ型で疲れやすく、冷えると痛みが増す。顔色がすぐれず、めまい・立ちくらみがあり、下肢がむくみやすい。経血量はむしろ少なめ。①とは正反対で、血が足りない血虚に水滞と寒が重なった虚証です。ここは血を補い、水を捌いて温める当帰芍薬散が合いやすくなります。
冷えが手足の先端に強く、しもやけができるほどなら、末梢の血虚と寒に的を絞った当帰四逆加呉茱萸生姜湯へ寄せます。同じ「冷えの月経痛」でも、全身の血虚・水滞が前面か、末梢の強い冷えが前面かで分かれます。
③ どの証にも重ねられる「攣急」の頓用 → 芍薬甘草湯
①②が体質(証)に働きかける主剤なのに対し、月経時に差し込むように発作的な痛みが走るとき、その攣急そのものを緩める頓用として芍薬甘草湯を重ねられます。主剤で土台を整えつつ、痛みの発作時にスポットで使う――役割が違うことを押さえておきます。
証が方剤を決める
同じ「月経困難症」でも、瘀血実か血虚寒かで方剤は正反対になり、そこに攣急の頓用が重なりました。病名だけでは処方が決まらず、その先の証が方剤を決める。これが実践の核心です。
いずれも器質的疾患の除外が大前提です。とくに続発性月経困難症(子宮内膜症・子宮腺筋症・骨盤内感染など)を疑う所見――進行する痛み、性交痛、不正出血、発熱――があれば、画像・婦人科的評価による原因検索を先に行います。安全性では、桃核承気湯は大黄・桃仁を含み、妊娠中は禁忌です。桂枝茯苓丸も桃仁・牡丹皮を含むため、妊娠の可能性を確認してから用います。当帰四逆加呉茱萸生姜湯は甘草を含むため、連用では偽アルドステロン症に留意します。いずれの方剤でも妊娠の可能性を常に確認します。芍薬甘草湯は甘草量が多く、連用で偽アルドステロン症に注意し、頓用にとどめます。