「冷え症」という訴えを、証で開く
外来の一場面です。「手足が冷えて眠れない」「夏でも靴下が手放せない」と訴える女性。採血も画像も甲状腺も異常なし。西洋医学では「冷え症」と一括りにされ、その先の手立てが乏しい領域ですが、漢方はここに複数の証を見分けます。
まず除外は必要です。甲状腺機能低下症・貧血・閉塞性動脈硬化症(ASO)・レイノー現象・膠原病など、冷えや末梢循環障害をきたす疾患を確認したうえで、体質としての冷え症を証で読みます。読む軸は、冷えが全身か・末梢か・冷えのぼせか、そして寒さに水(むくみ)や乾きが絡むかどうかです。
① 全身がだるく貧血傾向・むくみやすい → 当帰芍薬散
やせ型で疲れやすく、顔色が悪くめまい・立ちくらみがあり、むくみやすい。冷えは全身性で、月経は量が少なめ。これは血虚に水滞と冷えが重なった虚証の像で、婦人科の代表的な方剤である当帰芍薬散が合いやすい。血を補い、水を捌き、温める方向です。
② 手足の先が痛いほど冷え・しもやけ → 当帰四逆加呉茱萸生姜湯
冷えが手足の末梢に強く、指先が痛み、冬にしもやけができる。腹部より四肢末端の寒が際立つタイプです。血虚に強い末梢の寒が重なった像で、当帰四逆加呉茱萸生姜湯が向きます。全身より「末端」が決め手で、①とここで分かれます。
③ 腰から下の冷えに腰痛・帯下 → 五積散
冷えが腰から下に強く、腰痛や帯下(おりもの)を伴い、冷房や寒冷で悪化する。寒と湿、気血の滞りが絡む像には五積散を考えます。下半身の寒湿という捉え方が使い分けの鍵です。
④ 手掌のほてり・口唇の乾燥を伴う冷え → 温経湯
冷えるのに手のひらはほてる、口唇や皮膚が乾く、月経不順や不妊の相談を伴う。冷えの中に乾(陰虚)と煩熱が同居する像で、温経湯が合いやすい。単純な寒だけではない、この「乾き+ほてり」が温経湯の目印です。
「冷えのぼせ」は冷え症と地続き
もう一つ押さえたいのが、下半身は冷えるのに顔だけ火照る冷えのぼせです。これは純粋な寒ではなく、気が上に突き上げる上衝が絡んだ像で、更年期に多く見られます。訴えの中心がのぼせ・イライラなら加味逍遙散、のぼせと足の冷えの同居に瘀血の腹候が加われば桂枝茯苓丸へと、更年期の稿(第5回)と地続きで考えます。全身・末梢・冷えのぼせのどれが前景かを見極めることが、方剤選択の入口になります。
まとめと注意
同じ「冷え症」でも、全身・虚の当帰芍薬散、末梢の強い寒の当帰四逆加呉茱萸生姜湯、下半身の寒湿の五積散、乾+ほてりを伴う温経湯と、証で四通りに分かれます。冷えのぼせが前景なら更年期の方剤群も視野に入ります。甲状腺機能低下・貧血・ASO・膠原病などの除外が前提です。妊娠の可能性がある場合、当帰芍薬散は妊娠期にも比較的用いやすい代表方剤ですが、五積散は麻黄を含み動悸・血圧上昇・排尿への影響に注意し、妊娠期は慎重に扱います。妊娠・授乳中の使用については問題が少ないとする報告が増えていますが、添付文書上は「有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与する」とされており、実際の可否はこれに沿って個別に判断します。甘草を含む方剤では偽アルドステロン症にも留意します。
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